大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)53号 判決 1980年1月25日
八尾市萱振町六丁目九七番地
控訴人
岡本迪治
八尾市本町二丁目二番三号
被控訴人
八尾税務署長
広田厚男
右指定代理人
坂本由喜子
同
中村治
同
黒川昌平
同
元屋実
主文
本件控訴を棄却する
控訴費用は控訴人の負担とする
事実
控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人がした控訴人の昭和四七年分ないし昭和四九年分所得税についての各更正処分のうちそれぞれの総所得金額三〇万九四九三円、三八万三五一五円、九二万一七六五円を超える部分及び右各年分の過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
(控訴人)
所得税基本通達五一-一八は税務官庁内部の執務規程であるから、これによって所得税法五一条二項の要件を動かすことはできず、更に税務執行上の個別性への考慮等を勘案すると、控訴人主張の貸倒れは被控訴人の認定の有無に拘らず債権償却特別勘定の設定が認められるべきである。
理由
一、当裁判所も控訴人の本訴請求は失当であると判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。
事業所得の金額の計算上必要経費に算入される貸倒損失の金額は、所得税法五一条二項により、その貸倒れの生じた年分に確定された損失金額に限られるところ、本件通達は将来の回収不能を確定視させる一定の事由が発生した場合にもなお貸倒確定を待たせるという不都合を避けるため、貸倒損失計上の特例として債権償却特別勘定の設定により、未確定貸倒金の一部を予め必要経費に算入することができるよう、納税義務者にとって有利な取扱いを定めたものであって、すでに一般市民に受容され、またこれが法律の枠内で合理性を有するものであることは引用部分掲記のとおりである。そして控訴人もその主張の債権について右特例による必要経費算入の処理を正当づけようとしていることは弁論全趣旨から明らかであって、その適用を求める以上、当該通達に定められている要件を充足すべきことは租税負担の公平の見地からも当然であり、控訴人の原審供述から認められる橋本印刷や旭印刷への貸付及び返済の経過、同印刷らの営業の状況、また控訴人が予め被控訴人の認定の申請をしなかった事情等を考慮しても、本件において更に特別な取扱いを要求することはできないものといわねばならない。
二、よって本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 黒川正昭 裁判官 志水義文 栽判官 林泰民)